結論からまとめると、 ふるなびのCM曲はフランソワ・ジョゼフ・ゴセック作曲の《ガヴォット》というクラシック楽曲の楽譜をそのまま使用したものです。 一方、米津玄師さんの「IRIS OUT」のサビの部分は、このガヴォット的な音楽文法を土台にしつつ、終止や音の重心を変えることで全く異なる感情表現へと再構築された楽曲だと言えます。
2025年の年末紅白歌合戦への出場や、映画『チェンソーマン』の主題歌として話題になった米津玄師さんの「IRIS OUT」。 その一方で、ふるさと納税サイト「ふるなび」のCM曲と似ていると感じた人も多いのではないでしょうか。 実はこの二つの楽曲には、はっきりとした共通のルーツが存在しています。
米津玄師と「IRIS OUT」について
米津玄師(よねづげんし)さんの楽曲は、耳に残りやすいメロディと深い歌詞表現が印象的だと、多くのリスナーから評価されています。 静と動のコントラストや予想しづらいメロディ展開によって、感情を揺さぶられると感じる人も少なくありません。 映画やアニメの世界観と強く結びつく点も特徴で、映像と一体化した音楽表現として語られることが多いです。 「IRIS OUT」も、その作曲スタイルが色濃く表れた楽曲と言えます。
「IRIS OUT」は、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌です。 映画では、登場人物たちが、束の間の幸福を感じながらも、避けられない選択に直面します。
物語には愛と自由の葛藤、不安や憤り、あきらめが重なり合うように描かれています。「IRIS OUT」はこの不安定な葛藤を、安定しない旋律で見事に表現しています。 この不安定な旋律こそが、クラシック由来の構造を現代的に変形した形とも言えるでしょう。
「IRIS OUT」と似ていると話題のCM曲「ふるなび」
「ふるなび」のCMソングが、「IRIS OUT」のサビ「この世で君だけ大正解」の部分と似ているという声がネット上でも多くあがっています。
ふるさと納税サイト「ふるなび」のCMソングは、短時間でも強く印象に残るメロディーです。このCMソングは数年前から使用されており、耳にした方も多く、「ふるなび、ふるなび、ふるさと納税~」という歌詞に、どこか聞き覚えのある曲で、大人も子どもにも記憶に残り歌いたくなるメロディーです。 最近では元横綱の貴乃花光司さんが、あえて音程を外すユニークな演出が話題になりました。実は、このCM曲は、18世紀に作曲されたクラシック音楽の楽譜が使われています。
ふるなびCMソングの原曲
ふるなびのCMソングの原曲は、フランソワ・ジョゼフ・ゴセック作曲の《ガヴォット》です。 この楽曲はニ長調(D major)で書かれ、明るく規則的な旋律を持つ舞曲として知られています。 教育番組やCMなどでもよく使われる定番のクラシック曲です。
ゴセックの作品は著作権が切れているため、商用利用も問題ありませんので、 ふるなびのCMでは、この《ガヴォット》の主題旋律が楽譜どおりに使用されているようです。
「IRIS OUT」が「ふるなび」と似ているか、ドレミで比較
さて、なぜ「ふるなび」のCMソングと米津玄師さんの「IRIS OUT」が似ていると感じるのでしょうか?
「ふるなび」のCMソング、つまりゴセックの《ガヴォット》はニ長調で、ファとドにシャープが付きます。 代表的な主題は、ラ シ ラ ファ ソ ラ ソ ミ レ レ レ という音の並びです。一方、「IRIS OUT」の 「この世で君だけ正解」 というフレーズは、 ミ ファ ミ ド ミ ファ ミ ド ラ ラ ラ という旋律です。

あれ?違う音だね。似てると思ったのだけど?
それでは、比較するため、ガヴォットの音程を保ったまま、「IRIS OUT」と同じ「ミ」で始まる曲に変更してみます。 ラ→ミ は、完全4度下です。つまり、全体を同じ音程分だけ下げて移調します。
音程を保って変換した結果
ラ → ミ
シ → ファ♯
ファ♯ → ド♯
ソ → レ
ミ → シ
レ → ラ
よって旋律は、ミ ファ♯ ミ ド♯ レ ミ レ シ ラ ラ ラ となります。
IRIS OUT は、ミ ファ ミ ド ミ ファ ミ ド ラ ラ ラ です。

あ!やっぱり、似ているね!
ガヴォットの曲をIRIS OUTと同じ、4度下に移調したことで、音域が下がり、半音進行の印象も変わります。つまり、ガヴォットの明るさが押さえられ、音に重みが出て、内側に沈む感覚が強くなります。明るく軽快な音楽が沈むような不安や、諦念感が漂う印象に変わりました。
「IRIS OUT」と「ふるなび」原曲、音の比較検証
それでは、いよいよ、移調後のガヴォット(ふるなびのCM曲)とIRIS OUTの音の比較検証をしてみましょう。
①シャープ音が消えている。
ガヴォットと比べると、IRIS OUTは調性(ニ長調)が崩れ、明るさ、華やかさが失われ、音が濁り、影が差し、クラシック的な安定感が消え、曖昧で感情的な響きになっています。
②全音進行 → 半音進行への変化。
ガヴォットは全音進行でしたが、IRIS OUTは半音進行になっています。(ミ → ファ♯(全音)のところミ → ファ(半音)になっています。)半音は、緊張、不安、息苦しさを生みやすい音程なので、旋律が内向きになり、感情の揺れが強調されています。
③和声的な「行き先」が消えている。
ガヴォットには「レ」「シ」といった 調の中核音が含まれていますが、IRIS OUT では、それらが省かれ、ミ・ファ・ド・ラ という浮遊感のある音だけが残ります。そのため、 どこへ向かう旋律なのか分からなくなり、秩序を崩して感情だけを抽出した旋律と言えます。
結論
「IRIS OUT」 はガヴォットの骨格を残し、調性と解決感だけを削ったことで、感情に必要な部分だけを残した、構造の感情化とも言えるアレンジがされていました。これにより、2つの曲が似ているのに全く違う印象を生み出していることがわかりました。

似てるけど、違う印象だった理由も判明してスッキリ!
まとめ
いかがでしたか?今回の記事では、 米津玄師さんの「IRIS OUT」と、ふるなびのCMソングが似ている理由についてご紹介しました。 両者は同じクラシック音楽の文法を共有しており、共通のルーツが存在しています。
ふるなびのCM曲はゴセック《ガヴォット》の原曲使用です。 「IRIS OUT」はサビの部分で、その構造を現代的に崩し、感情表現へと変換しています。これは「偶然似た」のではなく、作曲した米津玄師さんが、構造を理解したうえで崩していると考えるのが自然です。 米津玄師さんの音楽は、整った構造をあえて不安定に揺らすことで、言葉では表しきれない感情を浮かび上がらせているように感じられます。
おさらい
- 米津玄師さんの「IRIS OUT」は、耳に残るメロディと深い感情表現が特徴。映画『チェンソーマン』の世界観と結びつき、静と動の対比で感情を揺さぶる楽曲。
- ふるなびのCM曲は、フランソワ・ジョゼフ・ゴセック作曲のクラシック舞曲《ガヴォット》の主題旋律を原曲どおり使用。
- 両者には共通のルーツがあり、《ガヴォット》的な旋律や音楽文法が基になっている。
- ガヴォットは、明るく規則的で安定した旋律。教育番組やCMなどでも使われる親しみやすいクラシック曲。
- IRIS OUTのサビ「この世で君だけ大成功」は、《ガヴォット》の旋律構造を土台に、調性や解決感を崩し、半音進行や和声の不安定さで感情表現を強めた現代的アレンジ。
- 似て聞こえる理由は、旋律の骨格(音の並び)が共通しているため。
- 印象が違う理由は、IRIS OUTが調性を崩し半音進行や浮遊感を加えたことで、ガヴォット(ふるなび)の明るさが抑えられ、内向きで揺れ動く感情表現になっているため。




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