イーハトーブシアター【真昼の星めぐり】を観た

イーハトーブシアター真昼の星めぐりを観た 子育て
宮沢賢治の世界

秋田を拠点に活動する劇団「わらび座」と、障害のある方のアートを新しい文化としてビジネス展開する「ヘラルボニー」がコラボしたミュージカル『真昼の星めぐり』を、子どもと一緒に観てきました。 宮沢賢治の世界を題材にしたこの作品は、子どもも大人も楽しめる、心あたたまる舞台でした。 今回はその体験を中心に、感想やヘラルボニーの魅力についても紹介します。

ヘラルボニーとわらび座のコラボに、アートと演劇の融合がどんな形で表現されているのか、興味津々です。

観に行った理由

この劇は、子どもが通う学校からの案内で知りました。以前から「ヘラルボニー」の取り組みに関心があり、また、子どもには宮沢賢治文学にふれてもらいたいと思っていたので興味をもちました。

そして、今回の劇は文化庁による「劇場・音楽堂等における子ども舞台芸術鑑賞体験支援事業」の対象公演で、子どもが無料、同伴者は半額で鑑賞できるというありがたい機会。「生の芸術を通して子どもの感性を育てたい」という親の気持ちを、背中からぐっと押してくれました。

ただし、子連れ時の観劇は、子どもが飽きて、ぐずったらどうしよう、という不安があります。
でも、今回の「光るボール」を抱えて観劇できるスタイルなら、子どもが飽きずに最後まで楽しめそう、と思いました。さらに、チラシに記載の「4歳から入場可能」という文字に、多少ぐずっても大丈夫そう、という安心感が芽生えました。念の為、鑑賞マナーも緩やかな回を申込しました。

劇団わらび座については、恥ずかしながら初耳だったので調べたところ、70年以上の歴史ある劇団で秋田で劇場を中心とした複合観光施設をも運営し、年間800回以上の全国公演をしているという大変興味深い劇団でした。一般的には知名度は高くないけれど、舞台・教育・地域文化の世界ではとても知られた確固たる存在であることがわかりました。

こうして、様々な期待が高まり、観に行ったミュージカルなのでした。

劇の内容

物語は、2人の幼なじみの女子高校生が、急に現れたどらネコに導かれ、宮沢賢治の世界「イーハトーブ」を旅をすることになります。 彼女たちは、宮沢賢治の童話(「やまなし」「虔十公園林」「どんぐりと山猫」「鹿踊りのはじまり」「なめとこ山の熊」)の世界を旅する中で、人や動物との出会いと別れを通して「失くしてしまった大切なもの」が何かに気づいていくストーリーです。 幻想的で詩的な世界観の中に、現代の若者にも共感できるテーマが描かれていました。

イーハトーブシアター『真昼の星めぐり』 https://ihatovtheater-mahiru.warabi.jp

ヘラルボニーのアートが彩る舞台

今回の公演では、ヘラルボニーの11点のアート作品が舞台美術や衣装に使用されていました。 大きなパネルとして背景に貼られたり、登場人物の衣服として表現されたりと、作品が物語に溶け込んでいました。 それぞれのアートが宮沢賢治の幻想的な世界観をより際立たせており、視覚的にも見応えがありました。

特に印象に残った作品を2つご紹介します。
まず、圧倒的な存在感の佐々木早苗さんの作品「(無題)(丸)」です。白地に黒い輪が力強く描かれています。よく見ると何本もの細い線が集まって太い輪になっているのです。 シンプルながら無垢さと優しさ、力強さを感じさせます。中心の何もかかれていない白い円は、私達がもつ光るボールのようにも見えます。光るボールを抱える私達自身が、あの黒い輪なのかもしれません。

「どんぐりと山猫」のシーンで一郎役の黒木真帆さんが着ていた衣装にも使われていましたが、テキスタイルとしても美しいデザインです。
以前、池波志乃さんがこの「Kuromaru」のボウタイブラウスを着用している記事(https://heralbony.com/blogs/journal/0515_ikenami_1) を目にしたこともあります。池波志乃さんが初めて購入したHERALBONYのアイテムは、佐々木早苗さんの作品「Kuromaru」のクラシックブラウスだそうです。

佐々木 早苗さん (るんびにい美術館) https://heralbony.com/blogs/artists/sanaesasaki

今回のミュージカルのパンフレットは何種類かバージョンがあるようですが、私が受け取ったパンフレットに使われていたアートは、工藤みどりさんによる「(無題)」でした。鮮やかな点描が遠くへ近くへと揺れ動くように無数に連なっています。 舞台では、自然と命があふれるイーハトーブの景色のようでもあり、記憶や感情が優しい光のかけらとなって蘇るような温かな懐かしさも感じました。

主人公の高校生めぐる役の冨樫美羽さんと、あおい役の佐々木亜美さんが着ていた制服のスカートも、最初は灰色一色だったのですが、物語後半にはスカートの一部に、この鮮やかな作品が使われていました。 これは主人公2人がイーハトーブを通して「失くしてしまった大切なもの」を取り戻していく心の変化を象徴しているようでした。

工藤 みどりさん (るんびにい美術館) https://heralbony.com/blogs/artists/midorikudo

子どもと見た感想

冒頭の教室のシーンです。派手なグループの一員「めぐる」が、友達にからかわれても嫌と言えず、ヘラヘラと笑っています。友達の「のり」を大事にして雰囲気を壊さないようにしている「めぐる」を、子どもは「あの子優しいね」と言いました。

私は本音を隠し、その場の雰囲気に流されることを「優しい(良い行い)」という子どもの考えに戸惑い、すぐに返事ができませんでしたが、確かに「めぐる」には「優しさ」がありました。誰かに嫌われたくないから反対できない「弱さ」だけではないのです。誰かが嫌な気持ちにならないようにと、周囲に協調する「優しさ」から、流されることがある、と気づかされました。

優等生の「あおい」は「嫌だ」と自分を主張できる子です。これこそ、あるべき正しい姿、と思えますが、そのため「あおい」は周囲から孤立しています。「あおい」は、友達から孤立してしまっても自分の意思を貫く「強さ」をもっているようです。けれども、自分自身がどうあるべきか悩んでいる「あおい」の「強さ」は、ゆらいでいて危うく心配になりました。

めぐるは「優しさ」のあまり、自分を偽り辛くならないのか、あおいは「強さ」ゆえに友達にも自分にも厳しくて張りつめてしまうのでは、と心配になる冒頭のシーンでした。



つづいて、イーハトーブの世界がはじまりますが、子どもの反響が一番良かったのは「やまなし」です。舞台をはみだし歌をうたう元気な蟹の親子が楽しかったようです。劇の最中に「クラムボンって何?」と子どもから聞かれましたが、答えに窮する質問でした。これは宮沢賢治が生み出した造語で、はっきりとした答えは賢治の作品の中でも示されておらず、謎なのです。私には、この客席で抱えている光るボールのことのように思えました。

蟹が歌う「クラムボンはカプカプ笑った、カプカプ、カプカプ♬」という曲がかわいらしく、子どもも気に入り、帰宅時も家族で歌いながら帰りました。

私の心に引っかかったのは「どんぐりと山猫」です。どんぐり裁判では、どんぐりたちが「誰が一番えらいか」をめぐって延々と争っていましたが、少年一郎は「このなかで、一番ばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、一番えらい」と言い切りました。その一言に、裁判長も納得し、裁判が終わります。

優等生の「あおい」は、その言葉に動揺します。きっと「あおい」は、大人たちから「頭が良くて、いい子でいることが一番えらい」と教えられてきたのでしょう。しかし、イーハトーブの世界では「ばかで、めちゃくちゃなのが一番えらい」と判決が下される。その価値観の反転に触れて、彼女の中で常識が揺らいだのです。

私自身も同じでした。子どもの頃に読んだはずの「どんぐりと山猫」なのに、このセリフをすっかり忘れてしまうほど、いつの間にか世間の常識に染まっていたことに気づかされました。

見ごたえがあったのは、「鹿踊りのはじまり」です。鹿たちに扮した俳優さん達が、太鼓と共に力強く舞い踊る様子は、民俗芸能のようでありながらコンテンポラリーな振り付けもあり、おおいに引き込まれました。衣装も和風の民俗芸能の装束をベースに、忍者か、アラビア風なのか、エキゾチックにアレンジされたブルーの衣装姿も、とてもかっこよくて見とれました。

宮沢賢治の原作「鹿踊りのはじまり」では、主人公の嘉十があまりにも鹿踊りに引き込まれて、飛び出してしまうところで、鹿が逃げていってしまうのですが、「めぐる」と「あおい」は飛び出しても鹿は逃げず、鹿を仰ぐ勢いで、鹿たちと無心に踊り続けるのでした。
あまりにもわらび座の「鹿踊り」がかっこいいので、調べたところ、岩手県花巻市の鹿踊り、岩手県遠野市の獅子踊りがルーツにあるようです。

わらび座資料 https://www.warabi.jp/education/9
岩手県公式観光サイト「いわての旅」遠野市のしし踊り https://iwatetabi.jp/spots/4454/
花巻観光協会公式サイト「イーハトーブの一番星をめぐる花巻の旅」鹿踊 https://www.kanko-hanamaki.ne.jp/spot/article.php?p=152

遠野市の獅子踊り、かっこいい!観に行ってみたいです。

さて、最後に2人の主人公が見つけた失くしてしまったものは、何だったのでしょうか。
子どもに聞いたところ、「なくしていた、ぬいぐるみ」と答えました。確かに、それは旅のはじめに失くし、最後に見つかったものです。
実は、幕間に見ていた劇場の売店で、そのぬいぐるみが売られていましたが、そこに「いろいろなシーン」で隠れているよ、とヒントがあり、子どもは密かに劇中にぬいぐるみを探しておりました。最後にようやく「めぐる」が気づいたので、子どもは「見つけられたね!」と、ほっとしていました。

本当に2人が見つけたものは、精神的なもの、だったようです。
最後に、2人は幼稚園の先生が言っていた言葉を思い出しました。
お星様は昼間どこにいくのか。消えてしまうのだろうか。
いいえ、消えてしまうのではない。「見えなくても、星はずっとそこで輝いている。」ということを。自分や大切な気持ちを見失ってしまっても、自分らしさや、大切な気持ちは消えたり、失ったりせずに、自分の中にちゃんとある、ということでしょうか。

星が昼間も消えずに輝いているように、ぬいぐるみも消えてしまったようで、実はずっと、そこにあった。子どもの答えも、あながち間違えていない、子どもにも何か伝わるような脚本になっている、と感心してしまいました。

「没入型」のミュージカル

この舞台では、開演前から演者が客席に挨拶したり、観客と交流する様子が見られ、アットホームな雰囲気が漂っていました。 舞台が始まっても俳優が客席通路を使ったり、客席から呼ばれた観客がステージ上に上がる演出もあり、俳優と観客の距離の近さが印象的でした。

観客全員がハグしている「光るボール」も物語と連動して、色が変化する仕掛けがありました。 舞台上に登場する光るボールと共に、客席全体が光で彩られ、客席が、川底の水の中や黄金の草原、満天の星空となり、まるで自分たちも舞台の一部になったような感覚。 舞台と観客が一体となる、没入型の新しいミュージカル体験でした。

終演後には演者の方々が劇場ロビーで観客を笑顔で見送ってくれ、子どもは、鹿踊りの千葉真琴さんと握手ができました。 最後まで温かい雰囲気に包まれ、子どもたちにとっても忘れられない体験になったと思います。

文化庁の「子供舞台芸術鑑賞体験支援事業」とは

今回のミュージカル『真昼の星めぐり』は、文化庁が実施する「劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業」の対象でした。 この事業は、子どもたちが舞台芸術を身近に体験できるよう支援する制度です。 子どもたちの心や想像力を育そだて、将来の文化や芸術を支える人を育てることを目指しています。参加団体の公演では、子どもが無料、同伴者も半額で鑑賞できます。

対象の公園は、文化庁サイトで調べることができます。演劇や音楽、舞踊など幅広いジャンルが対象で、全国の劇場で行われています。 普段は体験しづらい芸術文化を、子どもが気軽に楽しめるのが魅力です。

文化庁サイト https://www.bunka.go.jp/kodomokansho

わらび座とは

「わらび座」は秋田県を拠点に活動する70年以上の歴史ある劇団で、国内だけでなく海外でも公演を行い、年間のステージ数はなんと約800回! 民俗芸能を現代的に再構築したオリジナル作品を数多く上演しています。

宮沢賢治や東北の文化を題材にした作品も多数あります。 今回の『真昼の星めぐり』も、そんなわらび座らしい優しい世界観が感じられる作品でした。

わらび座は「あきた芸術村」という複合施設の企画・運営も行っています。ここは、劇場・温泉・ホテル・体験施設などを集めた複合施設、観光資源としても注目されています。 地元の人気クラフトビール「田沢湖ビール」の醸造・販売もしています。「あきた芸術村」は、観劇はもちろん、温泉や体験目当てで訪れても楽しめるので、秋田旅行の際はぜひ行ってみたいですね。

あきた芸術村 https://www.warabi.or.jp

ヘラルボニーとは

「ヘラルボニー(HERALBONY)」は、福祉×アート×ビジネスを融合させ注目を集めている企業です。社名は、双子の創業者の4つ年上の重度の知的障害を伴う自閉症の兄が7歳の頃に自由帳に記した謎の言葉だそうです。「異彩を、放て。」というコンセプトのもと、主に知的障害のある作家が描くアート作品を、商品・空間・プロジェクトとして社会に届けています。独創的な作品はファッション、インテリア、企業コラボ、公共空間のデザインなど幅広く活用されています。単なる福祉支援ではなく、「才能を社会に解放する」という姿勢が新しく、アートを通じて障害のある人の可能性を広げる文化事業としても注目されています。

今回の公演アドバイザーである、るんびにい美術館館長の板垣崇志さんと、ヘラルボニーの以前の対談のなかで、気づかされたことがあります。福祉事業では、作品を通じて収入を得て経済的に自立し、社会的に評価されることを「成功」と捉えがちですが、それは私たちが持つ経済的価値や成果を基準にした外側の価値観にすぎないということでした。

一般的に“良いこと”とされる結果が、作家本人にとっても“良いこと”とは限らないため、ヘラルボニーでは、作家自身が何を望み、どのように表現したいのかを尊重しているのです。それによりビジネス効率が落ちても作家への確認と承認を丁寧に行っているという話が印象的でした。

ヘラルボニー:https://heralbony.com/pages/about
ヘラルボニーのコラム:
https://heralbony.com/blogs/journal/podcast21 https://heralbony.com/blogs/journal/takashiitagaki_interview_2

宮沢賢治の世界観と現代へのつながり

『真昼の星めぐり』のテーマである「イーハトーブ」は、宮沢賢治が創作をした理想郷。 自然と人、心の豊かさ、喜びや苦しみ、生命の循環までも包み込む深い世界観を持つ、宮沢賢治の思想や願い、理想が詰まった心のふるさとのような場所です。

このミュージカルでは、宮沢賢治の「イーハトーブ」が、現代の高校生の心の成長と重ね合わせて表現されていました。宮沢賢治の代表作『どんぐりと山猫』などもモチーフとして登場し、子どもには新鮮に映ります。 大人には懐かしい一方、子どもの頃には気づかなかった、宮沢賢治作品に込められた奥深さに気づかされることでしょう。宮沢賢治の作品に多く存在する「失われたものを取り戻す」という主題も、現代社会にも通じる普遍的なメッセージです。

今回の舞台は、文学と舞台芸術が生身の俳優の演技や歌と融合することで、宮沢賢治の世界がより立体的に身近に感じられました。

劇場「こくみん共済coop ホール/スペース・ゼロ」について

今回の会場となった「こくみん共済coop ホール/スペース・ゼロ」は、東京・新宿駅南口から徒歩約5分の好立地にあります。 客席数は約500席で、中規模ながらも音響と照明がしっかり整った劇場です。 バリアフリー設備も充実しており、家族連れや子ども連れでも安心して利用できます。
設内に飲食施設はありませんが、小さめのロビーに待合席と自動販売機があります。斜め向かいにスターバックス コーヒー 新宿南口店がありますので、開演前の待ち合わせや・終演後の小休憩におすすめです。

こくみん共済coop ホール/スペース・ゼロ https://www.spacezero.co.jp

まとめ

今回の記事では、イーハトーブシアター『真昼の星めぐり』の観劇体験を通して、ヘラルボニー、わらび座、宮沢賢治の世界、そして文化庁の支援事業についてご紹介しました。 アートと演劇、舞台と客席、賢治の時代と現代、障害、大人と子ども、といった境を超えてつながりを感じられる舞台で、子どもにも大人にも心に残る体験となりました。 次回のイーハトーブシアターの公演があれば、ぜひまた訪れたいです。

おさらい

  • 観に行った理由:子どもに宮沢賢治の世界に触れてほしい、ヘラルボニーに興味
  • 劇の内容:幼なじみの女子高校生が「イーハトーブ」を旅する物語
  • ヘラルボニーのアートが彩る舞台:衣装や舞台美術に作品が融合し、視覚的に楽しめる
  • 没入型のミュージカル:光るボールや客席との一体感で新しい体験
  • 文化庁の子ども向け支援事業:対象公演で子どもは無料、同伴者は半額
  • わらび座:70年以上の歴史を持つ劇団、秋田拠点で全国公演や複合施設運営
  • ヘラルボニー:福祉×アート×ビジネスの文化事業、作家の表現を尊重
  • 宮沢賢治の世界観と現代へのつながり:失われたものを取り戻すテーマ、現代にも通じる普遍性
  • 劇場「こくみん共済coop ホール/スペース・ゼロ」の特徴:アクセス良好、バリアフリー、家族連れにも安心

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